宇都宮地方裁判所 昭和57年(ワ)373号 判決 1984年9月28日
主文
一 被告が昭和五六年七月二二日宇都宮地方裁判所昭和五六年(ケ)第一二一号不動産競売事件において別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地についてした担保権の実行としての競売は許さない。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。
四 別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地について当裁判所が昭和五七年一一月八日にした担保権の実行としての競売停止決定はこれを認可する。
五 別紙物件目録(四)記載の建物について当裁判所が昭和五七年一一月八日にした担保権の実行としての競売停止決定はこれを取消す。
六 この判決は、前記第四、第五項に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五六年七月二二日宇都宮地方裁判所昭和五六年(ケ)第一二一号不動産競売事件において別紙物件目録記録の不動産についてした担保権の実行としての競売は許さない。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
原告らの訴を却下する。
2 本案の答弁
(一) 原告らの請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 原告の主張
1 別紙物件目録記載の不動産(以下、本件不動産という。)のうち(一)ないし(三)の土地(以下、本件土地という。)は登記簿上藤田勘造の所有名義となつており、(四)の建物(以下、本件建物という。)は登記簿上藤田憲治の所有名義となつており、いずれにも別紙根抵当権目録記載の根抵当権設定登記がなされているところ、昭和五六年七月二二日、被告の申立により、担保権の実行としての競売手続開始決定がなされ、債権者である被告のために差押がなされた(宇都宮地方裁判所昭和五六年(ケ)第一二一号)。
2 本件不動産は、もと藤田為吉の所有であつた。このうち本件建物についての同人の所有権取得の経緯は次のとおりである。
為吉は、昭和五二年四月ころ、本件建物の建築を計画し、その資金として五〇〇万円を工面したが、自らは病身であつたので右五〇〇万円を二男勘造に預け、同年五月一一日、勘造を通じて大工鈴木修市に建築工事を請負わせた。為吉は、昭和五二年七月一六日に死亡したが、そのころには、ペンキ塗装、風呂場や台所のタイル張り、ステンレス工事等を残すのみであり、すでに建物としての独立性を有していた。したがつて、為吉は死亡前に右建物の所有権を原始取得したものである。
3 為吉は、昭和四五年一〇月二一日付の遺言公正証書により、為吉所有の不動産全部を同人の四女である藤田モリ子、五女である原告藤田イト子に、持分はモリ子五分の四、イト子五分の一として遺贈する旨の遺言をした。
昭和五二年七月一六日に為吉が死亡して右遺贈の効力が生じ、本件不動産は、モリ子、イト子の共有となつた。
モリ子は昭和五八年四月二七日に死亡した。モリ子には配偶者及び子がなく、相続人は母藤田キミのみであり、同人がモリ子の地位を承継した。
4 為吉は、前項記載の遺言において遺言執行者を指定した(右事実は、原告らが自ら主張しているわけではないが、被告が本案前の答弁において主張しているところである。)。
5 本件の経緯は次のとおりである。
(一) 勘造は、若年のころ怠惰で、浪費の悪習になじみ、父為吉と喧嘩して家を出た。そして他所で旋盤工をしていたが、勤務先が倒産したため昭和四七年為吉のもとに帰つた。為吉としては、このような勘造を嫌い、従来から生活を共にしていたモリ子及びイト子を頼りにし、両名に自己の老後の世話を任せてきた。為吉は、両名がその期待に応えてくれたのと、両名も独身で病い勝ちでありその将来が心配であつたために、本件遺言をしたものであり、前記遺言公正証書による為吉の意思は、単なる遺産の分割方法の指定等をしたものではなく、明らかに遺贈である。
(二) 為吉の死後、二男勘造は、為吉の相続人のうち妻キミ、長女石川八重子、三女古谷キヨ子、四女モリ子、五女原告イト子の相続放棄の申述書等を偽造した。そして、これらの書類に基づき、昭和五二年一一月四日宇都宮家庭裁判所をして、右五名の者の相続放棄の申述を受理させた。
(三) また、勘造は、行方不明であつた長男徳一郎について、昭和五二年一〇月二一日、宇都宮家庭裁判所において不在者の財産管理人選任の手続を経た。そして、財産管理人に権限外の行為である遺産分割協議の許可を得させたうえ、勘造において遺産全部を取得し、徳一郎は相続分を放棄する旨の遺産分割協議書を作成した。
(四) 勘造は、右のような処理の後、昭和五三年一月九日に本件不動産のうち土地につき、相続を原因とする所有権移転登記をしたものである。
(五) 本件建物については、為吉の死亡後である昭和五二年九月六日に、勘造が自己名義で所有権保存登記をした。
(六) そして、昭和五三年一月二五日に前記1の根抵当権設定登記がなされた。
6 以上のとおり、本件不動産はいずれも原告らの所有であるから、前記1の担保権の実行としての競売手続の排除を求める。
二 原告の主張に対する被告の認否及び反論
1 原告は、本件不動産の所有権取得原因として遺贈のみを主張するものであるところ、そうとするならば本件においては、遺言者為吉により遺言執行者が指定されているのであるから、本件訴訟遂行の当事者適格は遺言執行者にあり、原告らにはないものと解すべきである。したがつて、本件訴は却下を免れない。
2 請求原因1の事実は認める。
3 同2のうち、本件土地がもと為吉の所有であつたことは認めるが、本件建物の所有権取得の経過については否認する。本件建物は、勘造が注文主となつて業者との間で請負契約を締結したものであり、勘造においてこれを原始取得したか、あるいは業者より引渡しを受けてその所有権を取得したうえ、昭和五二年九月六日所有権保存登記をしたものである。
4 同3のうち、本件不動産がモリ子及びイト子に遺贈されたとの点は否認し、その余の事実は知らない。原告の主張する為吉の遺言は、被相続人である為吉が自己所有の不動産を共同相続人のうちのモリ子及びイト子の両名に相続させる旨指示したにすぎないものであつて、それは遺贈ではなく、遺産分割方法の指定とみるべきものである。
5 同5の(一)の事実は知らない。遺贈であるとする点は争う。同(二)のうち、相続放棄の申述書等が勘造の偽造であるとの点は否認し、その余の事実は認める。同(三)ないし(六)の事実は認める。
6 本件の経過は次のとおりである。
(一) 為吉は、昭和五二年七月一六日に死亡した。そして、勘造を除く相続人らがいずれも相続を放棄し、為吉所有の本件不動産(このうち建物については、仮に為吉が請求原因2のような経過で所有権を取得したものとしても)を勘造が単独で相続した。
(二) 被告は、本件不動産の所有者である勘造との間において別紙根抵当権目録記載のとおりの設定契約を締結のうえ、その旨の設定登記をなし、これに基づいて本件担保権の実行に及んだのである。
第三 証拠(省略)
別紙
物件目録
(一) 河内郡上三川町大字東汗字仁町免七〇五番一
田 三七三平方メートル
(二) 同所七〇五番二
田 六〇四平方メートル
(三) 同所九三七番二
田 八二七平方メートル
(四) 同所九三七番地二、 七〇五番地
家屋番号 九三七番二
木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅
床面積 八七・七七平方メートル
別紙
根抵当権目録
宇都宮地方法務局上三川出張所
昭和五三年一月二五日受付 第三四一号
原因 昭和五三年一月二四日設定
極度額 八〇〇万円
債権の範囲 金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権昭和五三年一月二四日付手形取引、昭和五三年一月二四日証書貸付
債務者 藤田勘造
根抵当権者 被告